🦝 狸の里 第九話「純心」

狸の里

ポン助と妖狐は、さらに人里に近い街道を進んでいました。
「いいか、次は自力で獲物を見つけ出し、化かしてみせろ」
妖狐の声は、ポン助の頭の芯まで冷たく響きました。

道端の古びたお地蔵様の前に、一人の少女が立っていました。
彼女の手には、野原で摘んできたような白い花がありました。
その花を地蔵に供え、少女は静かに手を合わせています。

「ちょうどいい。あのような幼子なら、造作もないだろう」

ポン助は、昨日の僧侶の醜い心を思い出していました。
(この子も、口では言えないような汚いことを考えているのか?)
疑いと好奇心が、ポン助の胸の中で渦巻きます。

ポン助は黄金の瞳を見開き、少女の「心」へ潜り込みました。
しかし、そこに見えたのは、予想に反するものでした。
僧侶の時に見た泥のような霧は、どこにもありません。

(お地蔵様、お母さんの病気を治してください……)
(私の代わりにお母さんに、温かいお粥をあげてください)
少女の心には、自分を捨てて誰かを想う光が満ちていました。
その透き通った祈りに触れ、ポン助は激しい衝撃を受けます。

「……化かせねぇ。こんなの、化かせるわけがねぇよ」
ポン助は額を押さえ、その場にうずくまってしまいました。
能力を得たはずなのに、心は以前よりずっと痛みます。
妖狐は冷ややかに笑い、ポン助の横を通り過ぎました。

「情けは身を滅ぼすぞ。お前はもう、ただの狸ではないのだ」
少女の祈りは続く中、ポン助は逃げるように走り出しました。
背後で響く妖狐の嘲笑が、いつまでも耳を離れませんでした。

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