「…狸か?」
妖狐が口を開いた。
その声は、鈴を転がしたように美しく、そして氷のように冷たかった。
ポン助は腰を抜かしたまま、コクコクと頷く。
「お、俺はポン助だ……。あんた、大丈夫か?」
妖狐は、自分の傷が塞がっていること、そして空になった徳利を見て、状況を悟ったようだ。
ふっ、と口元を歪める。
「馬鹿な奴だ。天敵である私を助けるとは」
「……目の前で死なれたら、酒が不味くなるからな」
ポン助が震えながら強がると、妖狐は興味深そうに黄金の瞳を細めた。
「お前、里を追われたな? 顔に『孤独』と書いてあるぞ」
「なっ……!」
「その優しさは、この山では弱さでしかない。……だが、私が力を貸せば話は別だ」
妖狐は、ポン助の耳元で甘く囁いた。
「私の幻術は、相手の『心』に入り込む。これがあれば、お前を馬鹿にした連中を見返すこともできる。……どうだ? 契約するか?」
「け、契約……?」
「ただし、代償はあるぞ。この力を得れば、お前はもう二度と『ただの陽気なポン助』ではいられない。他者(あいて)の醜い本音が見えすぎてしまうからな」
ポン助はゴクリと唾を飲み込んだ。 里を見返したい。強くなりたい。 その欲望が、恐怖に勝った。
「……頼む。俺に、化かし方を教えてくれ」
恐山の冷たい風が、二匹の間を吹き抜けた。
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