「まあ、いい時計というのは分かったけど、値段がな」
最終局面、値段交渉となった。
商品は気に入ってもらっている。
あとは金額だけか。
面接の場とはいえ、人生初の営業。
値段交渉など、やったことがない。
「時計にしては3万円は高くないか」
二の矢が放たれた。
「いえ、高い時計は何百万円もしますし、
特段、高いとは思いませんよ。
社長でしたらお安いくらいです。」
これは返しになっているのか。
反応が掴めない。
「25,000円なら買ってもいいけど」
だが値引きはしない。
今回の条件は “絶対に下げない” こと。
引くわけにはいかない。
「3万円で」というやりとりが4〜5分続いた。
数字の攻防だけでは埒が明かない。
この時計の見栄えは一通り説明した。
していないのは──
付加価値。
直観が叫ぶ。
金額の話だけが漂う空気の中、
おもむろに言葉を放った。
「この時計、ただの時計じゃないんです。
お守り時計なんです。」
面接官は虚をつかれたような顔をした。
さて──
この刃は相手へ届くのか。
📘 次の話
🕯️ 第6話
→ https://kamitani-toshikatsu.com/taiga6/

コメント