近所に耳鼻科は少ない。
金閣寺のあたりに一軒、歩きながら目に留めたことがある。
そこに行くことにした。
場所は、つい最近までテナント募集の貼り紙があった場所。
つまり、新しい病院だ。
受付を済ませ、問診票に記入する。
予約制のせいか、待合には数人しかいない。
静かだった。
順番が来た。
医師は若く、丁寧そうだった。
まずは口腔の診察。
扁桃腺のあたりに腫瘍のような膨らみがあり、
触れると血が滲むという。
血が滲む?
痛みもないのに。
静かに、何かが進行している。
焦燥というより、違和の始まりだった。
続いて、鼻からファイバースコープが挿入された。
喉の奥に冷たい異物感。
医師の手元が長く止まり、撮影の音が何度も響く。
写真が多い。
何かを確かめるような視線だった。
検査が終わると、医師はゆっくりと椅子を回した。
「扁桃腺から咽頭の下、食道のあたりに腫瘍があります。」
声はかすかに震えていた。
——腫瘍。
言葉の響きが、空気を冷やす。
だが、彼の表情には迷いがあった。
咽頭、食道、腫瘍——答えは一つしかない。
面倒なので、私から先に言った。
「癌なんでしょ?」
その声に怯えはなかった。
次の戦略を立てるため、
頭を冷静に回転させようとした者の声だった。
医師は小さく頷いた。
開業して間もないのだろう。
癌の告知にまだ慣れていないようだった。
紹介状を書くという。
「京都府立医大での精密検査を…」
そう言われたが、私は首を振った。
「京大病院にしてください。」
京大病院には通い慣れていた。
何度か命を救われた病院だ。
京都で一番の病院。
そこなら大丈夫だと思っていた。
——その日、私の中で静かで長い戦いが始まった。
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🕯️ 第3話
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