極楽譚 — 魂の牢獄(後編)

極楽譚

また歩き出した。
すると、なんとそこには先に死んだ嫁さんが座っていた。
嬉しさが込み上げ、急いで側に行った。

話しかける。
返事がない。
名前を呼んでみる。
返事がない。
自分の名前を伝えてみる。

うっすらと瞑っていた目が開いた。
「お前さん。」返事が返ってきた。

死に別れて三十年くらい経つ。容姿は昔のままだった。
「極楽に来たよ。」
嫁は「そう。」と答えたが、表情は変わらない。

昔の習慣で「なんか飯、作ってくれ。」と言ってみた。
「ここは極楽だよ。食べる必要がないよ。」
「寝なくていいのか。」
「ここは極楽だよ。寝なくてもいいんだよ。」
「働かなくていいのか。」
「ここは極楽だよ。働かなくていいんだよ。」
「何をしてればいい?」
「目を瞑って座っていればいいんだよ。」

そう言われると、男は嫁の隣で座ることにした。

しかし三十年ぶりの再会だ。積もる話をしだした。
嫁は「そう。」とうなずくだけだった。

三日もすれば、話すことがなくなった。

男はまた聞いてみた。
「これから何をすればいい?」
「ここは極楽だよ。目を瞑って座っていればいいんだよ。」

男は黙って、目を瞑って座ることにした。

何年経ったろうか。十年は経ったのか。
男はふと聞いてみた。
「いつまで座ってるんだ。」
「ここは極楽だよ。いつまでも座ってるだけでいいんだよ。」

百年は経ったろうか。
男はふと目を開けた。
嫁はまだ隣に座っている。

「いつまで座ってるんだ?」
「ここは極楽だよ。目を瞑って座っていればいいんだよ。」

男は遠のくような意識の中で聞いてみた。
「死なないのか?」
「ここは極楽だよ。もう死ぬことはないんだよ。」

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